卓球続けて痴呆予防も
運動は体だけでなく、頭にもよい。そんな効果が卓球で実証されている。
大分市内の病院では、リハビリステーションに卓球を積極的に導入、脳梗塞や痴呆患者の脳の活性化で成果を出している。適度に卓球をすると、脳内血流が増え、継続的に行えば痴呆予防にもなるという。
●卓球治療の現場
左半身マヒの男性(58)が、車椅子のままラケットを右手に卓球台につく。表情は因惑気味だ。
そこへピンポン球が転がってくる。男性はゆっくり右手を動かしラケットに球を当てた。もう一つ球が転がってくる。また当てる。動作を二十分も繰り返すうち動きがスムーズになり、上場にも興味を真剣さが現れてきた。
男性は脳梗塞にかかり、歩行訓練を始めたばかりで、卓球はこの日が初挑戦だった。理学治療法士は「意欲的で効果が上がりそう」と通常の理学治療法に加え、毎日卓球をすることを決めた。
卓球療法の草分けといわれる大分市医師会立アルメイダ病院。脳卒中や脳梗塞などの病に倒れた患者の多くは意識障害や痴呆が出現する。そのリハビリとして同病院は平成元年ごろから卓球を採用、年間延べ百数十人に平均二ヶ月半の卓球療法を続けている。
脳神経外科医のリハビリテーション部長は「大半のケースで効果がある」と強調する。
●研究者のテスト
卓球治療の効果について部長と元大分医科大学脳神経外科助教授で国立西別府病院の院長は三つの実験を行った。
まず、卓球愛好者六人に十分間スマッシュを続けてもらい、直後に脳内血流の増減を見るSPECT検査を実施。するとうち四人の小脳や脳幹部、前頭葉などで血流が増加した。
次に卓球選手三千人を対象にボケ度測定法「かな拾いテスト」を実施した。A4サイズ紙一面から一定時間内に母音だけを拾い出す試験で、知的作業をつかさどる前頭葉の機能検査。選手の成績はいずれの年齢でも選手でない人の平均値を超えた。
三つ目はランプが点灯したら飛び上がる「全身反応時間テスト」。普段スポーツをしない主婦四人に一日三十分卓球をしてもらい、一週間後にテストした。反応時間はテスト後はテスト前に比べ10%短縮。敏捷度が上昇した。
医学的には、脳血流の増加確認がキーポイントだ。図は脳梗塞の男性患者(84)のSPECT検査。上段は額付近、下段は鼻付近の横断面で血流量(脳内百グラム中の一分間の値)を調べたものだ。約二ヶ月の卓球療法後に明らかに数値が上昇している。
院長によると、血流量が増えると脳内にいきわたる酸素の量も増加。脳細胞が活性化するのに加え、グルコース代謝も高まる。つまり血流がつまった状態の脳梗塞とちょうど逆の現象が起きる。これまでの研究では、卓球で小脳、脳幹部を中心に血流量が増加することがわかった。
●効果は良好
アルメイダ病院の脳血管や痴呆症の患者百十三人を対象に平均二ヶ月間行った卓球療法でも効果は良好だった。
代表的な大脳高次機能検査の一つ、長谷川式痴呆検査(HDS-R)では、高度の痴呆だった患者二十人は卓球療法後に七人に減少。中度痴呆三十七人⇒二十三人 軽度痴呆二十二人⇒二十四人 正常三十四人⇒五十九人 とそれぞれ軽快。記憶力の確かさをみるベントン視覚記銘検査や、うつ傾向をみる自己評価式うつ尺度(SDS)でも効果を確かめた。
ただ重度のアルツハイマー型痴呆などにたいしては効果が見られないこともあり、「卓球療法も万能ではない」と院長は見ている。
運動と脳の活性化の関係では、『脳から老化を止める』などの著者がある浜松医科大学の名誉教授は「海外の成熟ラットを使った実験で、輪転台などで遊ばせたら短期記憶に関係する脳の海馬の細胞が増加したとのデータがある。これは成人の脳細胞は減る一方という定説をくつがえすのにつながるものだ」と話し、卓球や散歩などが前頭葉の機能を改善するなど適度な運動が心身の健康に不可欠、としている。
また、院長は運動のなかでも、卓球が治療に適しているといい「両足でバランスを取る動きが小脳、ラケットを振る動きが前頭葉、球の動きを目で追う動作が中脳をそれぞれ刺激する」と解説。「卓球は遊びの要素があり安全で場所を取らずとっつきやすい。一日三十分でも仲間と楽しみながら息長く続ければ、ボケの改善や予防になる」と話している。
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